ゴールデンな VS
(バーサス)vv
 

 

          




 高校生のアメフトが“クリスマス・ボウル”を目指しての秋を本番としていたように、大学のアメフトもその本番は秋から冬場。1部から3部までと、エリアに医科歯科大、大きく分けて5つあるそれぞれのリーグ別に、順位を決める星取り試合があって。医科歯科大を唯一の例外に、1部からエリアまでは、上位リーグとの入れ替え戦もある、油断のならない正に“正念場”だが、春にも“春季リーグ”という、対外試合をどっと催す時期がある。こちらはあくまでも個々の学校、チームが自主的に催すものということになっていて。馴染みの相手との定期戦とか交流戦、はたまた力試しだったり、アメフトの振興を目的とした“エキシビジョン”的な色合いが濃かったりするのだけれど。それでも、
「やっぱり何か本格的だよなぁ♪」
「うんvv
 会場も有料試合を催せるいかにも“スタジアム”という雰囲気の、立派な施設を当たり前に使うし、それにそれに何と言っても…選手たちの体格とか貫禄とかがやっぱり違う。キャリアだって違うから伸び盛りの高校生よりも安定感が出て来るし、力の制御もよくよく練られており、馬力だって桁違い。どんなに雄々しく思えても実際にぶつかってみて比べると、やっぱり高校生って線が細いんだなぁと思い知らされることがあれこれ多い。
「野球の選手なんかもそうだけどな。」
 尻がデカくなるし、腰だって太ももだってぶっとくなる。首や二の腕も逞しくなってくるし、それとは別にスタミナだってパワーだって増す。
「唯一勝てそうなのは、超回復力くらいのものかもな。」
 あと、学習吸収力とかでしょうか。普通に考えたって、休憩なんて何度かしか挟まないままに一日中お仕事している訳ですものね、大人って。年季の入ったルーチンワークで捏ね上げられた強靭さに、一日の内のほんの数時間だけしか鍛えちゃいない身体がそうそう敵う筈がないってもんで。
「まあ、アメフトの場合はポジションにもよるがな。」
 そうと言った悪魔のようなQB、今春から二回生に進級なさった彼らの先輩・蛭魔妖一さんもまた。相変わらずに“こんな細くてよくもまあ…”とまずは驚かれるような鋭利な印象の体格のままだが、それでもその筋骨のバネは確実に強靭さを増しており。主将として選手たちをきっちりシメてる気力も含めて、タフネスさもまたすこぶると増していて、そりゃあもうもう…色んな意味から頼もしい限り。

  “…うん、やっぱ頼もしいよなぁ。”

 R大のアメフト部は昨年創部したばかりという新興チーム。旗揚げした張本人でフェイクの天才…じゃなくって、紛うことなき“知将”の蛭魔と、気立ては優しいのに尻に火がつきゃ最強ラインと謳われた栗田以外は、これといった目玉もいない、同好会に毛の生えたような陣容の急造チームだったのに。昨秋の本リーグではあれよあれよと勝ちまくり、一気に3部リーグへ駆け上がり。そんな成長振りに どよどよと周囲が沸いたものの、勢いでのことだろうとの下馬評が大勢を占めると話題にもされなくなって。そうして迎えたこの春は、お互いに勝手も判ってる、頼もしい陣営をようよう揃える事が適ったけれど…。受験体制にあったがための“ブランク”と、現役大学生との様々な格差はやはり、些少と呼んで笑い飛ばせるようなものではないみたい。蛭魔さんがとりあえずと集めた顔触れの、自分たちよりずっと素人に近い“急増チーム”の先輩さんたちに、アメフト暦では1年ほど上な筈なのに、けどでも五分五分という勢いであしらわれたり対処されているほどで。
「体力だけは維持させてたからな。」
 そこんトコだけは救われてるってもんだぜと、やはり全てを織り込み済みだったらしき主将様だけは、大して揺らぐこともないままに“春の予定”を発表して下さり。単なる調整だけでは済ましませんともと、とんでもない強豪とも当たるような結構な対戦セッティングをきっちりと整えていらっさり。
「試合をするからには勝つのは勿論のことだがな。それ以外にも何でも拾え。」
「拾う?」
 訊き返した一年坊主へ“ふっふっふ…っ”と含み笑いを返した悪魔様、
「自分の身の肥やしンなることなら何でも拾えっつってんだ。」
 小器用になるための小賢しいテクでも悪かないが、あっさりへし折れるようなちゃちいのは願い下げだ。40ヤード4秒2の光速の脚
ランも、日本最重量ラインを圧し負かした底力と自信も、広大なエリアの空中戦を制したキャッチングも、一体どこで定着させたんだ? 実戦って本番の中で緊迫感に尖りながらのギリギリ学習が、お前らには一番効くからな…と。紛れもない過去の実績というのを、さりげなく挙げて下さったのではあるけれど、
“効くも効かないもあったもんじゃなかったような…。”
 そだったねぇ。
(苦笑) 元を辿ればどれもこれも、誰かさんの強引さに引っ張り込まれてのものばかりなんではなかろうか?

  “……………でも。”

 アメフトに関わったことで、それまでを過ごした歳月からは想像もつかないくらい、飛びっきりに充実した日々へと飛び込めたのはホントのホントだ。最初は知らないことだらけだったから、戸惑うことも多くって。それからそれから無理や無茶を一杯させられて。
(苦笑) 仲間が集まり、少しずつ少しずつ強くなっていったボクたちは、泣いたり笑ったりを一杯々々堪能したよね。絶望的な状況とも数え切れないほど向かい合ったけど、息をもつけない苦戦の中から粘って粘って勝ちを得て、比べるものなんてないほどのサイコーの興奮を幾つも幾つも体感した。
“…ううん、過去形なんかじゃなくってさ。”
 今からまた新しいステージが始まる訳で。もっとずっとのワクワクとゾクゾクを体感するために、こうして集まったボクらなんだから


  「ぶつくさとモノローグやっとる場合があったら、
   とっととグラウンドへ出て、何ヤードでも走ってこんかいっ!」

  「ひゃあっ、ははは、はいっっっ!!!」


 有無をも言わせずの、足元で爆
ぜるマシンガン掃射に追われるところなんか、やっぱり相変わらずですねぇ、うんうん。(苦笑) 体が資本の新しいシーズンは始まったばかりなんだから、怪我だけはしないでね。





            ◇



 ………と、大学の新学期と並行して始まった、どきどきワクワクの春リーグは…やはりそうそう甘くはなくて。くどいようだが“公式戦”ではないので、全チームがかりでゲームをこなしている訳ではないけれど。それでも ほぼ毎週末にどこかでゲームがあるものだから、それを見学に行ったりもしての忙しさ。そして、本来だったらそう簡単には受けてもらえやしないような、あまりにレベルが違い過ぎるようなチームへと、
「…どうやって繋ぎをつけたんだか。」
 交流戦とかいうのが組まれていたりする、R大学デビルバッツだったりし。
「わざわざご本人の口から語ってもらわなくても、輪郭だけなら漠然と判るような気もするけどな。」
「…そだねぇ。」
 むしろ真実を確かめるのが恐ろしい、どんなネタで誰が屈服させられたんだろうかの“脅迫手帳”も健在なお方ですからね。とはいえ、強引な“お膳立て”は此処までで、ここから先はプレイだけが物を言う、問答無用の実力勝負。さすがに楽勝なものは一つとしてなく、渋々で引き受けたマッチだからと控え選手で固めた顔触れを繰り出したチームでも、新生R大チームの…基本は固めてある攻守の冴えや、噂のアイシールド21の健脚を目の当たりにした監督たちが本気になってしまい、途中からウォームアップどころではない陣営を相手にしてのゲームへと塗り変わるのはいつものことで。上位チームだのに無様な負け方だけは出来ないというプライドも手伝って、真剣本気の馬力を繰り出して来られると、終盤はどうしても、蛭魔さんの仕立てるトリッキィな奇策や秘策に支えられての展開になるケースも多くって。2部リーグのチームにでさえ勝ってしまう新興チームということで、再びの注目を集めるようになるまでにさほどの時間は掛からなかったのだが。

  「ああ、明日から休みだからな。」
  「………はい?」

 連休の真ん中、一緒に3部へ上がった繰り上がりチームとのゲームを、久し振りの完勝という結果で収め、来週の試合もこのペースで頑張ろうぜと盛り上がっていたところへ、選りにも選って主将殿からのそんなお声。GW中は土日だけでなく祭日にもゲームが出来るとあって、今日のゲームから次の試合までは1週間もない。
「何も丸ごと休みンするとは言ってねぇよ。」
 付箋がいっぱいはみ出してる戦略ファイルをパタリと閉じつつ、
「明日はクールダウンに1日休みって言ってるだけだ。」
 いつもなら半日だが、来週末にセッティングした相手が関西のチームで、気になる目玉選手がいるらしいんでな。先乗りがてら、ちょいと偵察
スカウティングに行って来るから、お前らは各自で“休養&自主トレ”してな…ということで。

  「明後日の昼にはいつも通りグラウンドへ集合。」
  「はいっ!」

 ありがとうございました、お疲れさまでしたと、先輩後輩それぞれがスタジアムから直帰という帰宅の途につく。
「休みと言われてもな。」
「うん。」
 ようやく連係や何やのリズムというか呼吸というかが見えて来て、蛭魔さんが構えてくれた奇策に頼らないラン&ゴーなどの突撃も決められるようになって来て。手ごたえが日々充実しつつあって興奮度も熱く熱く高まって来つつあるのにね。休養が大事だっていうのは判るけど、この余力の勢いを大事にしたいなとも思う、後衛のチビーズ二人がどちらからともなく、明日の午後からどこかで一緒に自主トレを…と持ち出しかけたタイミングへ、
「…お。」
「あれ?」
 ほぼ同時にコールが鳴ったのがそれぞれの携帯。おもしろい偶然にあれれと顔を見合わせ、互いに会釈をしながらモバイルツールを手に取れば、

  “………あ。///////

 セナの側へはメールの着信。試合の勝利とは別口の、気分の高揚を招いて下さるとある人からの嬉しい便りであり、
“……………え?”
 相変わらずの用件のみという簡単なものだったが、あややこれは困ったな。顔を上げれば、雷門くんの方は電話がかかって来たらしく、背中を向けて話し込んでる。ちょっぴり畏まった話し方だが、手振り身振りがたくさん混じっているので、お母さんへの勝利報告とか? お話しが終わるのを待っていると、妙に顔が赤いまんまで通話を切ったモン太くん。こっちを振り向きざまにこんな一言。

  「あ、あああ、あのな、セナ。俺、明日、都合が悪くなった。」
  「…え?」
  「たた、大したこっちゃないんだが、あの、ほらっ。/////
   親戚のおばちゃんが来るんで、その、
   駅まで迎えに行ったり、昼間も接待したりしなくちゃで。//////
  「あ…うん。そっか。それじゃあ練習は無理だね。//////

 おやおや、あっさり予定変更ですか。
(笑) 何でだか、双方ともに顔が真っ赤なままで、
「そ〜か、しょうがないよね。」
「ああ、ごめんな、こっちから言い出しといて。」
「ううん、まだ具体的な約束はしてないし。」
「そうだったっけか? いやホント残念だけどもな〜vv」
 などなどと、妙に浮ついて白々しい会話を続けながら、表面的にはにこやか穏やかに最寄り駅まで向かう二人であり。……………セナくんの方はともかく、モン太くん。伯母さんが来るってだけで、そうまで顔を赤くしますか、君は?
(苦笑)










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  *原作Ver.の更新が一番遅い、困ったサイトになりつつありますな。
   ちょこっと時期きがずれ込みますが、ゴールデンウィークのお話です。